日本をはじめ、世界中の作り手が丁寧に作りこんだ“手仕事の世界”をご紹介する~手仕事Travel~。 第6回は滋賀県の焼きもの産地・信楽で、信楽焼の魅力と独自のセンスを織り交ぜた和食器を作っておられる堂本正樹さんの工房を訪ね、お話を伺いました。
千年続く焼きものの町“信楽”
信楽は滋賀県南部に位置し、のどかな風景が広がる山あいの町です。奈良時代の紫香楽宮や甲賀流忍者発祥の地など、歴史ロマンを感じられる地域です。
焼きものの歴史としては、平安時代末期~鎌倉時代に常滑焼の技術を取り入れて開窯したとされています。古代の琵琶湖由来の良質な土を持ち、大量生産地である京都や大阪に近いという地の利を生かし、戦国時代に栄えた茶の湯道具、近代に入ってからは大型の壺、火鉢、たぬきの置物などで発展してきました。焼きものの郷としての歴史はなんと約1000年!日本六古窯(※)のひとつに数えられている歴史ある焼きものの産地です。朝ドラの舞台としても記憶が新しいですね!
※日本六古窯とは、平安時代末期から現在まで生産が続く代表的な六窯(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称。平成29年に日本遺産に認定されています。
堂本正樹さんについて
そんな千年続く焼きものの町で作陶されている堂本さんとダブルデイのお付き合いは10年近くになります。ダブルデイのお客さまにも堂本さんの器を少しずつ集めておられるファンが多くいらっしゃいます。1年に10回近くイベントに参加される人気作家さんです。
大阪府ご出身の堂本さんは、大阪芸術大学の美術学科で絵画を学んでおられたそうですが、実習で粘土をこねているうちに土に面白みを感じたところから陶芸の道に進むことを決められたそうです。大学をご卒業後、信楽で粉引の焼きものを大成させた古谷信男さんの工房「古谷製陶所」に入所されます。
所狭しと作品や道具がならぶ工房内
同年代のライバルたちと切磋琢磨しあった修業時代
堂本さんは23歳から陶芸のキャリアをスタートさせて以来、一貫して信楽で作陶されています。なぜ信楽を選ばれたのでしょうか?
「まったく伝手のない状態で紹介を受けたのが信楽の古谷製陶所でした。インターンとして働いてみて、全て手作りで仕事を進めているところが良いなと感じて決めました。それに、同年代の若い人が多くて良い刺激をもらえそうだったんです。信楽には全国から陶芸の道を志す人が集まるので、他府県から来る人にもオープンな雰囲気を持っているのも気に入りました。そこから特に動くことなく今に至っています。修業時代に学んだことが今の全てに繋がっています。」
全国から集まる陶芸家やその卵たちと切磋琢磨できる環境もあって信楽を選ばれたんですね。修行時代に刺激を与えあったライバルたちとは今も交流がおありだそうで、こまめに情報交換をなさっているとか。
信楽焼の特徴を継承
堂本さんの作風と言えば、粉引や飴釉といった信楽焼らしい色合いを大切にされている一方で、緑青釉や紫釉など独特の深みと透明感がある釉薬も印象的です。この色合いはどのようにして生まれたのでしょうか?
「独立した最初のころは粉引が中心でしたが、色については常にテストを続けているのでその中で良いと思ったものを製品にしていった感じです。今の作風に落ち着いたのは10年前くらいですね。だいたい定番の4色(粉引・飴・緑青・紫)を中心に作っています。修行時代から信楽にいたので、信楽の土の特徴に自分の作品を合わせて作ってきました。」
信楽を代表する粉引から独自の色へ。少しずつのテストによって“堂本さんの色”が出来上がったんですね。
インスピレーションの源泉は料理
作品を作る上でインスピレーションはどこから得ているのかと尋ねると「日々の料理」という意外な答えが。
「器は料理をのせるために作っていますから、やはり料理をのせてみないことには良し悪しがわからないでしょ。自分の器に色々な料理を載せてみて、もう少し高さがいるな、もう少し軽くしなきゃな、などと考えています。」
日々の食卓で使いやすいということが考えぬかれているからこそ、堂本さんの器は毎日使いたくなるんですね。
堂本さんの食卓には、ご自身の器はもちろん、ご友人の作家の器も一緒に使っていらっしゃるとのこと。とても贅沢な器の競演が行われる食卓はぜひ拝見してみたいところです!ちなみに得意料理は”和食”だそうですよ。
堂本さんの器は、和食はもちろん、洋食とも相性が良い
堂本さんの作品にはフリルのような曲線や花のようなモチーフが表現されていますが、こちらはヨーロッパのアンティークや日本の古道具からのインスピレーションだそうです。もともと古道具収集がご趣味で、たくさん集めているうちに独特のディテールを器に取り入れることを思いついたそうです。
ひとつの器が誕生するまで約2週間
細かなこだわりが詰まった堂本さんの作品はどのように生まれるのでしょうか。
堂本さんは主に、“ろくろ”と“タタラ作り”で製作されています。カップ類はろくろで成型、皿や鉢はタタラ作りです。
例えば、タタラ作りの制作工程は・・・
▼板状の土を石膏型にはめて成型 → ▼面打ち/余分な部分を削いだり、デザインをほどこしてカタチを整える → ▼化粧土かけ → ▼乾燥 → ▼素焼き → ▼釉薬掛け → ▼本焼き という工程で進められます。この工程のほとんどが1点1点手作業!1点の作品が出来上がるまで約2週間かかります。
▼石膏型
▼面打ち
今回、面打ち作業をされているところを見せていただきました。余分な部分が削られ、形が整っていく様子がよくわかります。
<面打ち前>
石膏型の名残が見受けられます。
<面打ち後>
エッジがなくなり、なめらかになっています。
▼この化粧土をかけます
▼化粧土をかけて乾燥させているところ
▼本焼きが仕上がったところ
窯出し直後は貫入が入る音が聞こえます。今回はちょうどフリーカップの本焼きが仕上がったところだったので高音のピンという小さな音を聞くことができました。
作品が生まれる背景を知ると、器にますます愛着がわいてきますね。
自然が相手でもクオリティ追及
堂本さんが作品を作るうえで大切にしていることは何でしょうか。
「陶芸は自然の土や炎が相手。ましてや手作業で作っているのでどうしても誤差がでてしまいます。しかし、我々の仕事は製品として数を作らなければならないので、ひとつひとつのクオリティを大切にしています。1点だけ良いものができても仕方ないんです。作品と製品の違いなどはあまり意識せず、楽しんで作っていますよ。
生活って器だけではないでしょ。カトラリーもテーブルも、家の中には色々なものがある。生活全般を見渡してバランスがとれるような器づくりを心がけています。」
櫛を使って線が描かれているフリーカップ
土の魅力とお手入れ
陶器製品は土の素朴な肌触りや温もり感が人気です。特に粉引の白は「柔らかさや優しさを感じられるのが魅力」とおっしゃる堂本さん。
白い肌にほどこされた削ぎや文様から放たれる柔らかな陰影は、粉引ならではの魅力ですね。長く使っているとだんだんと貫入が進み自分だけの味わい深い器に育てていくことができます。一方で使い込んでいくうちに色合いの変化が気になる人も・・・。
粉引に限らず、陶器の表面には目に見えない小さな気孔があるので水分や油分が染みこみやすくなっています。扱い方がわからない、という方でも日々のちょっとしたお手入れをすれば安心。長くきれいな状態を楽しむことができます。
・購入後、使用する前に煮沸で目止め
・お料理を盛り付ける前に水にくぐらせる
・使用後はなるべく早く洗う
などです。また生地がとても柔らかいので優しく手洗いが基本。詳しくは、各商品ページにも記載されていますのでぜひご覧くださいね。 粉引の柔らかな手触りのように、物腰優しくお話くださった堂本さん。今は台湾の器にも興味があるとおっしゃっていました。新たな刺激との融合によってどんな作風が生まれるのか・・・益々のご活躍が楽しみですね。
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