日本をはじめ、世界中の作り手が丁寧に作りこんだ“手仕事の世界”をご紹介する~手仕事Travel~。 第5回はDOUBLEDAY ONLINE SHOPでは“Dono”の革小物がおなじみのアートブラウン社 林田さんにお話を伺いました。
福岡で約50年の歴史
Donoのお話を聞く前に、まずアートブラウン社について。アートブラウンの源流は意外にも“ジーンズショップ”。1970年代にジーンズショップを創業し、ジーンズに合うレザーベルトを作り始めたことがアートブラウンのスタートです。
1980年代の終わりにはイタリアンレザーの取り扱いをスタート、自社製品の卸やDonoブランドの誕生などを経て、現在は日本で唯一のセルヴァッジョレザーの取り扱いやレディースアイテムの拡充など、高品質なレザーアイテムを作るファクトリーブランドとして地位を築かれています。
工房内にはレザーのストックがいっぱい
アートブラウンのポリシー
世の中に「高品質レザー使用」を謳った商品はあまたありますが、アートブラウンは『機械的な大量生産ではなく、一つ一つ手作業でぬくもりのあるモノづくり』が創業時から変わらないコンセプトです。革の鞣しから製品への仕上げまで、地道な作業によって出来上がった製品をお客様の手元で10年20年と使い続けてもらえることを目指している企業なんです。
それはつまり、製品として出来上がったものが完成品なのではなく、お客様に使い込んでいただくことによって価値が出てくる、お客様に完成させてもらうことを想定して製造しています。
持続可能なモノづくり
アートブラウンで使用するレザーは全てタンニン革を使用しています。タンニン革とは、革を鞣す際に天然由来の原料を使用したもの。人体に有害な薬剤などは使用していません。その代わり、鞣すのに手間ヒマがかかりますし、革の加工もしにくいため製品化には高度な技術も必要です。では、なぜそんなレザーを使うのでしょうか。
『当社では1988年からイタリア産の革を使い始めました。ヨーロッパでは、革をなめしている現場と生活の場が同じであることが多いんです。タンニングの排水は自分たちの生活に直結します。排水は100%浄化してから自然に還すんです。
また、なめした皮の厚みを均一に整える工程では皮の裏面を削るのですが、その削りカスは畑の肥やしに再利用されています。
手間と時間をかけても自然との共生を優先させるという、革文化の本場で培われた生産背景と、アートブラウンの事業ポリシーが合致しているんです。高品質なだけでなく、持続可能な生産背景を持つヨーロッパの革を使うことは自然な流れでした。』
タンナーの作業風景
環境問題にも目を向け、自然素材を使い続けるからこそ、持続可能な製品づくりを実践しているのがアートブラウンのモノづくりなんですね。
Donoについて
では、いよいよDonoについてお伺いしましょう。
Donoが誕生したのは2010年。当初はユニセックスアイテム中心で展開していたそうですが、2012年にセルバッジョレザーと出会いレディスアイテム中心に切り替えました。
Donoは「無駄な装飾を入れず、革の特徴を生かした無機質なデザイン」がブランドのコンセプト。ブランド誕生当初から女性デザイナーが企画しています。
女性向けブランドなのに無機質なデザイン。いっけん相反するように感じますが「革の特徴を生かすための無機質。長く使っていただいて、使っていく人の手に馴染んでいく」ことを目的としているから、あくまでデザインは無機質なんだとか。
イタリア語で“ギフト、贈り物”という意味を持ち “大量生産品ではない職人の手仕事や想いを届けたい”という意味が込められています。
Donoはどんな革を使っている?
Donoはセルヴァッジョというレザーを使用しています。この革は、イタリアのコンチェリア・ラ・ブレターニャ社が作っており、セルヴァッジョレザーを使用しているのは日本国内では唯一です。このセルヴァッジョレザーはアートブラウン社の他の製品にも数多く使われています。
セルヴァッジョレザーの特徴
セルヴァッジョレザーは約1000年続くバケッタ製法でなめされています。1枚1枚手作業で染め、オイルを染みこませています。時間と手間が非常にかかる製法ですが、他の革にはない独特の風合いが生まれます。
新品の状態でまだら模様があるのはこの風合いを生み出しているためです。使い込んでいくうちに均一な表情に変わっていくのもセルヴァッジョレザーの特徴です。
●上:新品 下:約3年使用
●左:新品 右:約3年使用
イタリアでなめされた革が日本で製品に
イタリアのタンナーで丁寧になめされた革は日本に来てようやく製造工程に入ります。アートブラウンではほとんどの工程が手作業。長く愛用していただきたいので、細かな部分もしっかり作り込みます。
~工程の一部をご紹介~
●レザーの型抜き
革に型を置き、プレス機で圧をかけて革を型抜きします。革を無駄にしないよう見極める経験値が必要。もっとも重要な作業とも言えます。
●縫製前の下準備
縫製する際にパーツがずれないよう一枚一枚両面テープなどで仮止めをします。また、コバと言われる革の側面を手作業で磨いていきます。タンニン革はコバを磨くことで断面が美しくしあがります。
●ロゴの刻印
単純そうに見えて、実は温度調節などの微妙な力加減が必要な工程。
●縫製
細やかな下準備を経て、ようやく縫製が始まります。少ないものでも10以上、多いものだと20~30工程を経てようやく出来上がります。
ひとつひとつの工程で革と向き合いながら製造することで、手仕事のぬくもりも感じることができる商品として出来上がっているんですね。
長く愛用するためには
Donoの製品を長く愛用するにはどのような注意が必要でしょうか。
『セルヴァッジョレザーにはたっぷりのオイルが染みこませてあるので、基本的にはメンテナンスは不要なんです。特に、財布などはご自身の手が持つ皮脂が革にとってもちょうどよい保湿になります。冬場など、どうしても乾燥が気になる時は革用のオイルなどで軽く保湿してください。
傷がついてしまっても、最初は気になりますが使用しているうちに馴染んできます。傷や使用感も含めて、使い込んだ風合いをお楽しみいただけるのがオイルレザーの良いところです』
今後の展望について
今後の展望についてお伺いしたところ
「会社の方針と一緒で、ひとつひとつの製品をていねいに地道に売っていきたいと思っています。もちろん、いろいろな企業にお声がけいただいたり、コラボレーションなども企画し、さらにブランドを浸透させたいとは考えていますが、それも全て一過性のものではなく”持続可能な会社であるために“していること。
Donoを買ってくださったお客さまは、他にご自身が欲しい物があったかもしれない。その欲しい物を我慢してDonoを買って下さっているかもしれないことを常に意識し、責任あるものづくりをしていく」
というアートブラウンさんらしいお答えをいただきました。
もちろん、DOUBLEDAY ONLINE SHOPとしても同じ想いであることは言うまでもありません。
Donoをお求めいただいたお客さまの手に馴染んで唯一無二の“宝物”にしていただける、そんな未来を楽しみにしています。
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